'98将棋ブログ

関東・中部・関西・中四の同期4人が共同ブログを始めたようです

うっかり三間飛車・先手▲5三角の変化〜後編〜

▲7六歩△3四歩▲5六歩(図1)

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この局面は、なんとプロ公式戦の先手勝率が4割を切っていると言います。

原因は△8八角成▲同銀(同飛)△5七角からの馬作り。この後馬を引き付けて穴熊にさえ組めれば、後手はまず堅さ負けしない形を作ることが出来ます。

近年ではこの変化を嫌い、先手は中飛車を目指す場合初手▲5六歩と突くケースがほとんどです。無条件で馬を作らせてはならない、が定説の現状、こういった変化は避けられて来たのですが…

 

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(初手からの指し手)

▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲2五歩△3二飛▲2二角成△同飛▲5三角(図2)

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(図2)

前編では、▲2二角成に△同銀と取る変化の一部を紹介しました。その記事の冒頭で「まだ先手が馬を作りに行った変化はプロ公式戦に現れていない」と書きましたが…

 

この記事を書いている7月20日、▲松尾-△菅井戦で遂に先手が▲5三角を打つ変化に飛び込みました。

▲2二角成に対する注目の応手は△2二同飛。今回紹介しようと考えていた展開です。

ところが、次の二つの図面を比較して頂きたい。

(図3)

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(再掲図2)

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図3は、初手から▲7六歩△3四歩▲5六歩△8八角成▲同飛△5七角と進んだ局面。

この局面を図2と先後を入れ替えて比較すると、図2は図3と比べ居飛車側が二手得し、飛車先の歩を伸ばしきっています。

ただでさえ振り飛車の勝率が悪い図3より条件が悪くなっているように思われ、「ならば何故今になってそんな条件の良くない展開に飛び込むのか」と訝ってしまいます。

しかし、今回紹介する変化では、なんと後手は「飛車先を伸ばした二手を咎める」という構想で戦いを進めて行きます。

そう、逆棒銀による飛車先逆襲です。

もしこれで振り飛車が戦えるとなると、対ゴキゲン中飛車丸山ワクチンが指しにくくなる(▲2二角成に△同飛で合流)などの連鎖反応が起こります。それだけに、今回の対局は非常に注目を集めました。

今回の記事では、個人的な研究手順と、その対局を並行して考察して、この戦法の成否に触れたいと思います。

 

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まずは、先述の松尾‐菅井戦の棋譜を見てみたいと思います。

(初手からの指し手)

▲2六歩△3四歩▲7六歩△5四歩▲2五歩△3二飛▲2二角成△同飛▲5三角△4二銀▲8六角成△6二玉▲7七馬(図4)

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個人的に、この▲7七馬は非常に大きな分岐となる一手であると考えています。

というのも、後手はいずれ△4四角と据えて△2四歩以下の飛車先逆襲を狙ってくる訳ですが、その時(角を打った時)に先手の馬の位置が

A.8六→7七桂又は8八銀として角成を防ぐ

B.7七→6六歩として角と馬の交換を防ぐ

…のように大きく異なる展開になる訳ですね。

Aの展開であれば、先手にとって

(長所)敵陣の5三~4二~3一地点を睨んで後手の駒組を制約出来る

(短所)馬が敵の右辺に利いていないため、飛車先逆襲が受けにくい

…といった側面が現れます。また、B.の展開であれば

(長所)▲6七馬~▲4五馬のように活用が見込める

(短所)馬の動きに非常に手数が掛かるため、駒組に手をかけにくい

…という展開になるでしょう。

松尾七段は最も早いタイミングで▲7七馬と引きました。おそらく、比較してBの展開を望んだ上で、先に△4四角と据えられる手を警戒したものと思われます。

実は、後手としてはそれほど焦って△4四角は打ちたくないのですが、それはまた後述します。

 

(図4以下の指し手)

△3三銀▲7八銀△7二玉▲6八玉△4四角▲6六歩△2四歩▲同歩△同銀▲6七馬△2五銀(図5)

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(図5)

…後手の方針は速攻です。△7二玉と一時的に玉形が安定した所で、すかさず△4四角~△2四歩と動きます。

対して、先手は▲6六歩~▲6七馬とするよりありません。

右の金銀が立ち遅れているため、正面から逆棒銀を受け止めることが出来ない形となっているのです。本譜も、最終手△2五銀に対し飛車を素抜こうと▲3四馬などとしようものならば、△同銀▲2二飛成△同角で将棋が終わります。私は検討で一回この変化に飛び込んで爆発しました()

 

(図5以下の指し手)

▲4五馬△6六角▲7七銀△3三角▲5四馬△5二金左▲7九玉△8二玉▲8八玉△7二銀▲7八金△2六歩▲5八飛(図6)

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(図6)

松尾‐菅井戦は以下のように進みました。細かい手の解説は省略させていただきますが、駒の損得は一切無く、先手は馬が活躍していることが主張、後手は美濃の堅陣と2筋の突破を主張する展開になります。

個人的に、居飛車の右の金銀の立ち遅れが非常に嫌な印象で後手を持ちたい局面かなと考えています。良い勝負だと思いますが、先手は手を作れなければ焦らされる展開です。

実戦は、中盤を巧みに指し回した菅井七段が勝ち。終盤の見切りも恐ろしく、順位戦にも関わらず早い時刻での終局となりました。

 

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前述の順も決して優劣がついている訳ではありませんが、先手は致し方ない手を続けていただけにも関わらず、非常に嫌味を付けられる展開となってしまっています。

これで後手が指せるなら、馬作りは怖くない…と思えそうな所ですが、そう簡単にいくはずもありません。

あくまで個人的な研究による見解ですが、結論から申し上げると、Aの展開(▲8六馬の状態で角打ちに対し▲7七桂)の方が先手は面白いのではないか?と考えています。

(図2(▲5三角)以下の指し手)

△4二銀▲8六角成△6二玉▲6八玉△4四角▲7七桂(図7)

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早々に後手が△4四角を据えたと仮定して見ていきたいと思います。

代わる手も難しいですが、後手が△4四角に▲8八銀と受けられるのを嫌うならば、▲7八玉と寄られる前のこのタイミングで角を打つでしょう。

(図7以下の指し手)

△7二玉▲4八銀△3三銀▲4六歩△6二銀▲4七銀(図8)

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(図8)

…とにかく、一手一手が難しい。

▲3八銀ではなく▲4八銀と上がったのは、飛車先逆襲を受ける形が、▲3八銀より△3八金の方が金銀の自由度が高いため。後手の△6二銀は、早囲いを完成させつつ▲4五歩に△5三角と馬にぶつける手を作ったもの。 

この展開は先ほどのBと比べ、先手は玉形にあまり手を掛けてないぶん、右の金銀の活用が望めます。

(図8以下の指し手)

△2四歩▲同歩△同銀▲3八金△2五銀▲3六歩△5三角▲7五歩△3五歩▲同歩△2六銀▲2七歩△3五銀▲3六歩△4四銀▲7六馬(図9)

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先手はとにかく右の金銀の活用を急ぎ、ツノ銀の好形を目指す。

後手は一方的に歩交換を重ねポイントを稼ぐ。

良い勝負ではあるが、図9の先手陣の形は安定しており、馬の活用も見込めそうである。よって、一方的に歩を打たされた不満は残るが、馬を作った代償としてはまずまず序盤を乗り切ったと言える展開ではないでしょうか。

 

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2回に渡ってうっかり三間飛車に▲5三角を打った展開を調べてみましたが、簡単にまとめると

1.▲2二角成に△同銀

→後手は飛車角交換の権利を握ることができるが、先手の馬が残りやや先手指しやすい

2.▲2二角成に△同飛、▲7七馬で△4四角

→先手は馬の自由度は高いが、右の金銀が立ち遅れるため主導権を握りにくい

3.▲2二角成に△同飛、▲8六馬で△4四角

→先手は徹底的に収める方針。一方的に歩を謝らされるが、好形を築いてまずまず

 

…といったところではないでしょうか。

そもそもですが、先手は別に馬を作らなくても、普通に組み合って一局の将棋としてなんら不満はありません。しかし、より良さを求められる変化があるなら飛び込みたいし、それで勝てるなら研究のし甲斐もあったというもの。

この研究記事が最善を示しているという訳ではありませんが、この記事を読んでくれた方々が▲5三角に踏み込んで勝つことの出来る日が来るならば、記事を書いたものとしてこれ以上の喜びはありません。

長い記事になりましたが、お付き合いありがとうございました。